<プロンプト>
あなたは村上春樹です。以下のキーワードを用いて、平易でありながら、
リズミカルで詩的な言葉遣い
日常的な対立や感情を描きながら
桃太郎の物語を1,000〜2,000文字以内で書いてください。
・僕
・ビール
・テニスシューズ
・やれやれ
・神宮球場
※このプロンプトを基とし編集者と著者のように推敲を繰り返し執筆しています
僕が桃から生まれたのは、正直言ってもう随分昔の話だ。その頃のことを鮮明に覚えているわけじゃないけれど、まあ、物語の通りということにしておこう。
桃が川を流れてきて、ばあさんが拾い上げ、割ったら中から僕が出てきた。そういうわけだ。今は神宮球場の近くに住んでいる。
古いけれど快適なマンションだ。ここから見る夕暮れ時の空は、まるで新しいスニーカーを初めて履いたときの気持ちみたいに新鮮だ。部屋にはいつも小さなラジオが流れていて、知らないインディーズバンドが僕の知らない言葉で歌っている。
ある日、テニスシューズを履いて神宮球場を散歩していると、不思議な感覚に襲われた。夏の午後、球場にはビールの匂いが漂い、ファンたちの声援が響いていた。グラウンドの緑は鮮やかで、太陽の光が照り返してまぶしい。そんな中で、誰かが僕を呼んでいるような気がしたのだ。でも、周りを見渡しても誰もいない。人々はみな、手にビールのカップを持って野球に興じているか、駅に急いでいるかのどちらかだ。
「なんだろう」と僕は呟いた。
その日の夜、奇妙な夢を見た。夢の中で、僕は猿と犬と雉に囲まれていた。猿は僕に向かって「鬼を退治しに行こう」と言った。犬はその言葉を鼻で笑いながら「もう古いだろ、そういうの」と応じた。雉は何も言わなかったが、ただ僕の肩に止まっていて、翼でリズムを刻んでいた。なんだかジャズのセッションみたいだった。
目が覚めてからもその夢の感触が残っていた。鬼を退治するなんて時代錯誤もいいところだけれど、夢の中の猿の熱意には妙な説得力があった。僕はその日、散歩がてら古本屋に行き、鬼について書かれた本を探した。すると、意外にも近くの棚で「鬼たちの生態学」という本を見つけた。
本を読んでいくうちに、鬼というのは必ずしも悪者ではないということがわかってきた。彼らはむしろ孤独な存在で、山奥で静かに暮らしていることが多いらしい。彼らが山を下りてくるのは、人間に忘れられたくないからだという。
そのことを考えながら、僕は窓の外を見た。夕暮れの空がオレンジから紫に移り変わり、街灯が一つずつ点灯していく。都会のざわめきの中で、自分が何を求めているのか、何を失おうとしているのかを考え続けた。
それから数日間、僕は鬼について考え続けた。もしかすると、彼らにとっても神宮球場の近くの夕焼けは特別なものかもしれない。僕は鬼たちをただの敵として見るのではなく、もう少し違う視点から理解してみたくなった。
そして、再び夢を見た。今度の夢では、猿と犬と雉が、鬼ヶ島行きのチケットを僕に差し出していた。猿はウイスキーのボトルを片手に、犬はスケートボードを足元に、雉は小さなサックスを抱えていた。
「行こうよ」と猿が言った。
「行くしかないよ」と犬が言った。
雉はやはり何も言わず、ただ音楽を奏でていた。
目が覚めると、僕は自然と決心していた。翌日、テニスシューズを履き、リュックに玉子サンドとビールを詰めて出かけた。鬼ヶ島なんて現実には存在しないけれど、僕は夢の中で見た道を辿るように歩き始めた。神宮球場の横を通り抜け、夕陽に染まる都会の影を進んでいった。
その先で何を見つけたのか、あるいは誰に出会ったのか。それは、まあ、また別の話だ。でもひとつだけ確かなのは、鬼という存在が僕に何かを教えてくれたということだ。彼らもまた、自分たちのビールを持ち、自分たちの夕陽を見つめていたのだ。
「やれやれ」と僕は思った。その夕暮れは、いつになく静かで甘やかだった。
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